国民の声を国政に直接届ける「デジタル市民提案」が凄すぎる
今日、デンマークのフレデリクセン首相が記者会見を行い、2月7日までの期限だったロックダウンを2月末まで延長することを発表しました。
12月25日から施行されたロックダウン、当初は1月3日までという期限でしたが、年明けに2月7日まで延長されたので、今回で2回目。
クリスマス直後のピークに比べると、感染者数はかなり減ってきたのですが、イギリスで見つかった新種のコロナウィルス(B117)が広がっているため、再延長に踏み切ったようです。
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そしてその裏でニュースを賑しているのは、なんと「フレデリクセン首相に対する弾劾裁判を国会に求める署名活動が一定基準を達した」ということ。
デンマークの憲法によると、50,000人(人口の約1%)の署名を集めた市民提案は、国会にて議論・審議しないといけないことになっているそうです。署名活動と言うと、街頭で署名を呼びかける活動があって、ある程度署名が集まると大量の署名用紙を役所に提出する・・・というイメージかと思います。
ですがデンマークでは、署名活動もほぼ完全にデジタル。
この仕組みが本当にすごい!
デンマーク国会が運営している Borgerforslg (市民提案) というウェブサイトに行けば、楽天で買い物するよりも簡単な手続きで国政に物申すことができちゃいます。
Borgerforslag.dk er oprettet af Folketinget for at håndtere ordningen om borgerforslag. Her kan du stille borgerforslag, finde forslag, som andre har stillet, og støtte borgerforslag.
日本の署名活動の問題点
さきほど挙げたように、日本の署名活動は「街頭での署名活動」と「紙への手書き」というアナログな仕組みなので、機能していないか、非常に労力を要する活動になっています。
理由はいくつかあるのですが・・・
① 署名している人が法的に意義ある署名者か分からないのでそもそも信憑性がない(有権者でない人の署名、存在しない人の偽装署名、同じ人が何度も署名する重複署名などを防ぐ仕組みがない上に、紙の手書き署名を後で検証し直すのはほぼ不可能)
② 法的に署名活動の効力が及ぶのは地方自体までで、国会の場合は参考程度にしか扱われない
③ 街頭活動では説明が不十分になりがちで、署名者が内容を理解していないまま署名していることが多い
④ 街頭で署名を集まる署名活動はめちゃくちゃ大変なので、相当な覚悟・労力・根性がいる
このように日本では署名活動で国政を動かすのは実質、無理な気がします😭
NemIDが保証する清き署名
一方で、デンマークの「市民提案」は、NemIDというデンマーク版マイナンバー(CPR番号)に紐付いた個人認証IDを使うので、すべてBorgerforslgのウェブサイトで完結することができます。
もちろんマイナンバーの仕組みを使っているので、NemIDでログインした人がデンマークの有権者であることを確認することができます。そして、1人が何度も署名していないことも確認できるので、署名の一つひとつが、清き一票!
これは紙では絶対にできない効率性と信憑性。デジタルの力を使うのが本当に上手なデンマーク。日本のデジタル庁にも同じレベルを期待したい!
ちなみに、市民提案に証明しようとすると👇のようにNemIDのログイン画面がでてきます。ログインして確認画面をOKすれば、有権者として署名したことになります。(僕はNemIDを持っているのでログインはできますが、有権者ではないので確認画面で弾かれます)
透明性がすごい!
なんといっても、市民提案はすべて Borgerforslgのウェブサイトで公開されているので誰でも自由に閲覧することができます。
おまけに署名人数がリアルタイムで公開されているので、人気のもの、重要そうなもの、旬なものがとてもわかりやすい!
ちみみに、実際のウェブサイトは👇のようになっているので、かなりわかりやすい。
ダメな市民提案は、署名数が2桁ぐらいですが、意味がありそうなものはかなりの署名を集めているので、市民もしっかり考えて署名していることが分かります。
匿名性も担保
発起人と共同発起人の名前とメールアドレス(希望する場合は電話番号も)は公表されますが、提案に同意するサポーターは匿名です。
NemIDの仕組みで、匿名にもかかわらず、デンマーク国民が重複することなく署名したことが保証できるようになっています。(ただし、誰が署名したか分からないようになっているので、自分が署名した過去の市民提案の履歴をみたりすることもできないのがちょっと不便らしい)
ちなみに、実際の市民提案は👇のような感じ。タイトル、数パラグラフの概要、そして発起人・共同発起人の名前、というように非常に簡潔でわかりやすい。
街頭活動は不要です
市民提案は Facebook、Twitter、Linkedinなどのソーシャルメディアへ簡単に共有できるようになっているので、無理して街頭活動をする必要がありません。
ルールが明確
そして、最も重要なのは市民提案がちゃんと受理されて、意味のある結果につながるよう、手続きが非常に明確になっていること。
日本の場合、集めた署名用紙を関係省庁に手渡すシーンが大々的にニュースになったりしますが、その後にどうなるのか良く分かりません。
でも、デンマークの場合は「外国人の僕でもわかるぐらい」かなり明確な手順が記載されていました。
Google翻訳なのでちょっと間違っている可能性もありますが、👇な感じ。
① 市民提案を元に、国会の事務方が骨子を作成(この時には発起人および共同発起人にも入ってもらうことが多いようです)
② 提案に一番近い国会議員が選ばれ、その人が国会に審議提案(どう国会議員が選ばれるのかはちょっとわかりませんでした)
③ 国会内での1回目の審議を通れば、国会委員会での検討が指示される
④ 国会委員会での検討を経て、国会内で2回目の審議を行う。
⑤ 2回目の審議が通れば、関係省庁での具体的な法令・実行プランの検討が指示される
⑥ 法令や予算化に必要な審議を行い、施行もしくは実行する
原則、1年以内に審議されるっぽいので、かなりスピーディな感じがします。ちなみに、②以降の流れは通常の国会審議と同じなので、市民提案以外の事案も基本この流れだそうです。
デンマークの国会は、日本と異なり1院制度(衆議院と参議院で分かれていない)なので、そこもスピーディーに物事が決まる理由かもしれません。
それにしてもこんなに簡単に国会に物を申せるなんて・・・。小さい国のデンマークだからこそ実現できるのかもしれませんが、デジタルの力を本当に上手に国会運営に取り入れてるなぁと感心してしまいました。
今度時間があったら、過去にどんな法令や実行案が市民提案から生まれたのか調べてみようと思いますね。
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さて今回、50,000人以上の署名を集めてしまったのは「Mette Frederiksen for en rigsretssag Nu (フレデリクセン首相を今すぐ弾劾裁判に!)」という市民提案。
フレデリクセン首相は、変異版コロナウィルスの原因となったミンクの一斉処分に踏み切ったのですが、それで被害を被った業界関係者が提出したのだと思われます。
運が悪いことに、クリスマスから再度延長しているロックダウン規制の鬱憤もあり、署名が集まってしまったのだろうなぁと僕は推測しています。
政府への信頼が厚いデンマークでは、市民提案によって弾劾裁判を要求されるというのはとても珍しいことだそうです。この後、おそらくフレデリクセン首相を弾劾裁判にかけるかどうか国会内で審議するのだと思いますが、どうなることやら。引き続きウォッチしま〜す。