デンマークでは、 複業=離婚?!
ここ数年のビジネスキーワードを振り返ってみると、「副業解禁」や「リカレント教育」といった文言が目立つようになった気がするのは僕だけでしょうか。
メディアでも盛んに取り上げられているだけではなく、政府や経団連などの業界団体も複業やリカレント教育を推す方向に進んでいて、日本における働き方改革や生産性向上の特効薬という雰囲気です。
また、日経COMEMOさんに登場するキーオピニオンリーダーさんらが投稿するnoteでも、複業やリカレント教育を後押しされています。
日経COMEMO|日経COMEMO公式日経COMEMOは、様々な分野から厳選した新しい時代のリーダーたちが、社会に思うこと、専門領域の知見などを投稿するサービスcomemo.nikkei.com
僕自身も本業の傍ら、起業家支援団体の理事やグロービス経営大学院の講師をしたりと、複業はかれこれ10年以上。
そして今現在デンマークに住んでいるのも、きっかけは3年前にオーフス大学院に留学を決めた奥さん。異文化マネジメントコンサルタントだった奥さんが、経験の体系化と専門知識のアップデートをしたいと一念発起して大学院へと進んだのですが、これは正に「リカレント教育」というもの。
振り返ると、現在デンマークで楽しく仕事をしながら、充実した毎日を過ごせているのは、複業やリカレント教育によって得られた機会のおかげと言っても過言ではりません。
だから、僕も複業やリカレント教育はオススメしたい派なので、👇のような記事で日経COMEMOさんのテーマ投稿をしたこともあります。
https://note.com/embed/notes/ncc99c06be9a7
でも、副業解禁・リカレント教育万歳という日本の路線が「正しい」のか? と言われると見方によっては違うかもしれません。
複業が一般的ではないデンマーク
実はデンマークにおいて複業はちょっと珍しいことのようです。
特に正社員のオフィスワーカーが、本業以外に仕事をする話はあまり聞きません。
なので、僕が土曜日にグロービスの授業をしていると言うと、僕の同僚達は「えええっ、土曜日に働くの?!」とちょっと驚きの表情。
週37時間の労働が「当たり前」のデンマークでは、37時間を超えて仕事をするというのは働きすぎのサイン。
だから僕のように週37時間のフルタイムに加えて、グロービスに約5時間の時間を費やしているのは、デンマーク人にとってはかなりのオーバーワークなのです 😅
日本でよく言われているように、複業をすることでスキルが磨かれる可能性があるというのはYesです。ただ、やっぱり働いていることには違いなので、複業をすると「総労働時間」は増えてしまいます。
無駄な残業を減らすことで働き過ぎを是正する流れがあるのに、複業で働いちゃうと「働き過ぎている」ことには変わりがありません。
つまり、複業という仕組みでスキルアップを促進させるというのは働き過ぎを助長させてしまう可能性があるのだと思います。
なので、政府や経団連などの業界団体が副業解禁を声高にして、複業を後押ししている様子を見ると、働き過ぎニッポンが続いてしまうのではないかと非常に心配なのデス・・・。
働きながら学校に通ったら離婚する?!
内閣府の広報ウェブサイトには、リカレント教育について非常にわかり易い説明があります。
リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ、社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「社会人の学び直し」とも呼ばれます。
『「学び」に遅すぎはない!社会人の学び直し「リカレント教育」』
内閣府大臣官房政府広報室
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202108/1.html
ただ、僕が気になるのは太字の「日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ・・・」という文言。
グロービスで学んでいる学生のほとんどは社会人学生。働きながら、平日の夜や週末に授業を受けています。
働きながら学ぶので、キャリアにおいて途切れがなく、学んだことをすぐに業務に使えるというのがメリット。(グロービスにおけるワークロードはかなり高いので、日々の仕事をこなしながら勉強されている皆さんには本当に脱帽です)
ですが、デンマーク人的には「それって、離婚まっしぐらじゃないの?ヤバくない?!」という反応なんです。
デンマークにおいて、家事や子育ては基本的にフィフティ・フィフティ。パートナー間で平等に分けるのが当たり前なので、自分が受け持つべき家事や子育てをちゃんとやらないと、パートナーの不満がたまり離婚されてしまう可能性が高くなります。
一応デンマークでも、職種によっては仕事をしつつ、職業訓練校に通ったり、ビジネススクールに通ったりしている人もいますが、僕の同僚いわくそういった夜間・週末教育コースのことを「離婚促進プログラム」と揶揄したりするそうです😅
ちなみにデンマークでは、学費が無料(もしくは非常に安い)だったり、学生の間は国から生活費が支給される仕組みが整備されています。
そのため、本当に学校で学び直しをしたかったら、仕事を辞めてフルタイムで勉強に専念する、という選択がしやすい環境がちゃんと作られています。(その代わりに税金が高いけどね)
ですが、前述したように日本の政府の考え方は「仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育」と働くことが前提。
そこに家事や子育ての時間への考慮や、家族に対するケアがされてなさそう・・・。
仕事と勉強の両方を同時にさせるのではなく、勉強に専念させる。そんな方針があってもいいはずなのですが、残念ながらそこまで至っていないような気がします。
複業はやりたい人がやるべきもの
「複業やリカレント教育はオススメしたいけど、必ずしも必要なものではない」というのが僕の考え方。
やるか、やらないかは、個人が選択するものなので、政府や業界団体の役割は複業やリカレント教育を「選択しやすくする」ための環境を整えることだと思うのです。
ですが、最近の政府や経団連などの業界団体が複業を推進しようとしている姿は、「押し付け感」がしてしまう。
まるで、複業しないとスキルアップできないかのよう・・・。そういう社会にはしてはいけない気がするのは僕の杞憂なのだろうか。