残業しない北欧の光と影

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以前から噂に聞いていたけれど、やっぱりデンマークの会社の残業は少ない、というか残業ゼロと言っても過言ではありません。

ネットでも「北欧 残業しない」と検索すると、残業がゼロに近いことを褒めちぎる記事がたくさん出てきます。

まぁ確かに素晴らしいのですが、実際に働いてみると100% 完璧なものでもないことも気がついてしまいました。

何かというと・・・

教育や育成に割く時間も「ゼロ」という冷たい現実。

例えば、日本で一般的な新卒研修や、先輩・後輩制度(OJT制度、ブラザー/シスター制度とも言われます)はほぼ存在しない感じ。基本、仕事を手取り足取り教えてもらえるような機会はありません。

また、「経験に良いだろうから、彼にやらせてみようか」や「彼女はそろそろ昇進だから、1つ上の仕事を任せてみようか」というような、部下の育成を考えた仕事の割り振りというのもおそらく珍しいと思います。

なぜか?

ひとつは、「他人の教育・指導」はものすごい時間食い虫だから

先輩として後輩指導を任されている方や、管理職として部下がいる方はご存知のように、教育や指導って相当労力を使います。

仕事を丁寧に説明する時間、相談に乗って一緒に考える時間、部下・後輩がミスった時に一緒にリカバリーする時間・・・。

本来なら自分の仕事をしないといけない時間を削って、教育や指導に時間を使うので、結局最後は残業でカバーせざるを得ないこともしょっちゅう😭 

でも、それで後輩や部下が成長してくれば、より大きな仕事を任せられるので、長期的な「投資」として労力を割くわけです。

一方でこの「投資」は短期的に見るととてもムダ。教育や指導に使った時間に本来業務を進めれば短期的な生産性はグッとあがります⤴︎

つまり、デンマーク式ゼロ残業では「残業しないで家に帰る → 日中に本来業務をちゃんとする → 他人の教育・指導に割く時間はない」という合理的なロジックに陥るのだと思います。

キャリア的に痛手なのは、「1つ上の仕事や新しい仕事を任せてもらえる機会が圧倒的に少ない」というポイント

日本の場合、若手に大きな仕事を任せて経験値を稼がせる・昇進させるという仕組みが日常茶飯事的に機能します。仕事を任せて失敗しても上司・先輩の残業というコストでカバーできるからです。だからポテンシャルさえあれば、色々な仕事にチャレンジがしやすかったり、部署異動で新しい能力をゲットしやすかったりします。

でも、デンマークの会社では誰も残業したくないから、「絶対に失敗しない人」にしか仕事を振りません

結果的に、経験が浅い若手の成長チャンスは限られるので、キャリア成長せずに現業で甘んじるか、リスクが高い転職でキャリア成長を狙うかの2択になってしまうような雰囲気を感じます。

そしてふたつ目の理由は、そもそも研修や指導が必要な人を採用しないということ

デンマークでは、「職務内容をあらかじめ明記するジョブ型採用」が当たり前なので、職務内容に必要なスキル・知識・経験を持っていない人(≒ 別途研修や指導係が必要な人)を採用する発想がありません。

以前👇のnoteでも紹介した通り、ジョブ・ディスクリプションで求めているスキルや経験が完璧にマッチしないと書類審査が突破できないぐらい難関なのです。採用された時点で「初日からすぐに働き始められる」と確信しているので、研修や指導係は不要という発想です。

正直、これは学校を卒業したばかりの若者には厳しい世界。

多少学歴があっても、キャリアと経験がなければ、書類審査を突破できない・・・。

実際、OECDが集計しているOECD加盟国の失業率を見ると、デンマークの25歳以上の失業率は4.6%ですが、25歳未満の若年失業率はなんと驚きの11.7%。(欧州の中ではまだ良い方ですが・・・)

僕がプライベートで手伝っているソーシャルスタートアップ「The Clothing Club」のボランティアメンバーは20代が多いのですが、みんな就職活動中。それが普通ので若者はチャンスを掴むのが本当に大変そうです。

結局。。。
「残業ゼロを徹底する → 社員の生産性が超重要 → 成果をすぐに発揮できる経験者のみ採用 → スキル・経験がない若手は就職難」
という不公平な社会構造を作り出しているのかもしれません。

もちろんデンマークでは、若年層の失業率対策としてユニーク(だけど半ばブラック)なインターンシップ制度を取り入れたりしています。面白い仕組みなのでいつか紹介したいと思います。

ちなみに日本の場合、25歳以上の失業率が2.6%、25歳未満の若年失業率は4.5%。OECD加盟国の中では若年失業率が最も低い国です。

失業率データの出所:
OECD (2021), Unemployment rate by age group (indicator).
doi: 10.1787/997c8750-en (Accessed on 02 February 2021)

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健康を害するほどの残業、家族との時間がなくなってしまう残業、正当な対価が支払われないサービス残業、これらが悪なのは間違いなく、なくすべきと思います。

でも、残業を減らす過程で、真っ先にダメージを受けるのは「長期的な観点で他のメンバーを育成する余裕」、そして社内での成長機会かもしれません。

その時に真価を発揮するのが「複業」だと思うのですが、話が長くなってしまったのでまたの機会にしようと思います。

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追記: 複業については👇の記事を書きました!

また、「幸福の国」と称されるデンマークの「影」の部分にスポットライトを当ててみたPICK UP記事もオススメです♪

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