🇺🇦おばちゃんが教えてくれた独裁国家の怖さ
胸を痛めるニュースが続くウクライナ。
まだ訪れたことがない国ですが、「ウクライナ🇺🇦」と聞いて思い出すのは20年近く前に出会ったAおばちゃん。
当時の僕はまだ大学生。シドニーの大学で勉強しつつも、現地の東芝でちょっとした開発プロジェクトに携わる機会に恵まれました。
その時に、僕の隣の席で製図の仕事をまかされていたのが、ウクライナ人移民のAおばちゃん。
おそらく契約社員的な位置付けだったと思いますが、オーストラリア人のプロジェクトマネージャーが「こんな感じで書いてほしいんだけど・・・」と雑なメモを持っていくと、東芝製の工業用モーターや電気機械を納入するための設計図面をパソコンと手書きでサッと仕上げるという仕事をされていました。
英語はカタコト。でも、製図の腕は確かで、東芝本体で技術者だった上司が「日本にいる技術者よりレベルが高い」と褒めるぐらい。
それもそのはず!!
実はAおばちゃん、旧ソ連のロケット開発を手がけた生粋の技術者だったのです!
Aおばちゃんと僕は通勤路が同じだったこともあり、帰りの電車でおしゃべりを良くしていたのですが、ある日、何かの話題で過去のロケット開発の仕事をポロッと教えてくれたのです。(はっきり言ってなかったけど、ミサイルだと思う)
ええええっ、すごい・・・。
もっと詳しく聞いてみると、ウクライナではかなり専門的な設計技術の仕事についていたようです。それは図面を書くのが上手なはずだ・・・。
それがなんでまたオーストラリアに? それなりに良いお仕事をされていたのに、それを捨ててまで移民の道を選んだのはどうしてだろう?
そう思い、恐る恐る聞いてみると・・・
子供達が生まれる前の頃の話ね。
夫とキエフの郊外に住んでいたの。
ある日突然、いきなりソ連の兵隊がやってきてね。道路や庭の土を全部掘り返していくのよ。
「何があったの?」と聞いても、「黙って家の中にいろ!」と力づくで家の中に閉じ込められるの。
明らかに異常事態なのに、何も教えてくれない、何も分からない、そんな状態で何日も経ってようやく分かったのは1週間後。
遠方にいる知り合いから「チェルノブイリは大丈夫か?」って電話があって初めて知ったのよ。
原発事故があったって。
ロシアは放射能の危険があるのに、何日も何日もウクライナ市民には教えてくれなかったの。
放射能も怖かったけど、何も教えてくれない政府が怖かったし、許せなかったわ。
その後、子供が生まれることがわかって、この子達のためにも、私は安全な国に、信用できる国に行くと決めたの。
だからオーストラリアに家族全員で来られて良かったとおもってるのよ。
Aおばちゃんの話を聞いてから20年。
僕は大学卒業後、就職と共に日本に帰国したので、一度も会えず、連絡も取れなくなってしまいました。
でも、独裁的で強権的な政府の怖さを教えてくれたこの会話はいまだに心に残っています。
その彼の国は再び勢力を伸ばすために暴力的な手段に出てしまいました。
元気ならシドニーで暮らしていると思うのだけど、母国ウクライナの現状を見てきっと心を痛めているに違いない。
それが何よりも悲しい。